パネルディスカッション

中川先生の司会進行のもと、「情報活用能力の育成」という視点から先生方の実践について解説していただきました。

今回のセミナーを振り返って

金沢星稜大学 前教授
佐藤 幸江 先生

佐藤先生

近藤先生の実践

 近藤先生の実践の肝は、 多様な視点の情報を関連付けて自分の考えを形成する しかけがあるところではないかと思っています。今回紹介された実践の中心は国語科ですが、事前に総合的な学習の時間で栄養士さんから旬の野菜について学んだり、社会科で自分たちが住む県の野菜を調べたりしています。多様な情報の中から必要なものを自ら選択するというしかけが随所にありました。

 今回は、新聞を作るという場面でICTを活用していました。効果的だった点として、紙では難しいレイアウト自体の変更や、2つの写真を比較するといった場面で試行錯誤ができたことがあげられると思います。また、仕上がりがきれいで本物っぽさが出せたという点からも、子どもたちにとって満足のいく活動だったことが窺えました。

広瀬先生の実践

 広瀬先生の実践は、AIに関するニュースを収集・分析し、AIがどんなデータを認識しアウトプットしているのか<E-VOLVOX>を使って整理するというものでした。最初は、AIに命令される時代が来るのが怖いと言っていた子どもたちが、学びを進めていくうちに人を手助けするAIが多いことを知り、怖がらずに共存することが大事なのではないかということに気付いていきました。 自分たちの意志で選択・収集した情報を整理する という活動を行う中で意識が変わっていったのだと思います。

 <E-VOLVOX>は、考えを表すスペースが限られていることもあり、文章を要約するチカラ、写真を選択するチカラ、さらに情報を階層化するチカラなどが身に付き、子どもたちが考えを整理する道具として活用できるのではないかと感じました。

茨城大学 准教授
小林 祐紀 先生

小林先生

菊地先生の実践

 菊地先生の実践は、ユニバーサルデザインについてグループで追及し発信するというものでした。中でも子どもたちがポスターをつくる際、本物に触れ、分析するという場面がありました。そこで生まれたこだわりが 子どもたちの主体的な取り組み につながった、ここが非常に重要です。

 また、ICTの特性や機能を活かすために、キーボード入力などの 基礎的なスキルの習得 にも重点を置き、その習得の場面を学習の文脈の中に位置づけていたことも印象的でした。

 さらに、 発信する場所を複数保証する ということもとても大事だと思いました。情報活用能力を育む学習活動には「受け手の状況などを踏まえた発信・伝達」とあります。実践では、学年でのポスターセッションや区役所の方へのプレゼンテーションなど、受け手の状況に合わせ、どのように伝えていくかが問われる場面を適切に設定していました。

反田先生の実践

 反田先生の実践は、<E-VOLVOX>を使って自分が作りたいアプリのイメージを可視化するというものでした。

 <E-VOLVOX>は、学習プロセスや学習そのものの全体像を階層的にとらえて可視化することができます。さらに、その階層を何度も行ったり戻ったりできるしかけにより、子どもたちは「 自らの思考過程を俯瞰的に捉える 」ことができたのだと思います。

 <E-VOLVOX>は、プレートと呼ばれるところに手書きで描く、文字を入力する、写真や検索した画像を入れる、URLを貼りつけるなど、いろいろな使い方ができます。このように子どもたちの 思考の自由度を担保できる ことはICTを学習に取り入れる上で大事なことだと感じました。

武蔵大学 教授
中橋 雄 先生

中橋先生

福田先生の実践

 福田先生の実践は、「観光アプリの開発」というテーマで、金沢市を紹介するガイドブックをデジタルで作るという内容でした。ガイドブックはさまざまな情報をリンクでつなぐため、自分たちが調べたことの関連性を見つけ、構造的に捉える必要があります。そこで<E-VOLVOX>を活用し整理しました。さまざまな情報を、どういう手続き・どういう構造でつなげれば良いかを考えていく中で、 プログラミング的な思考 が育成されたのではないでしょうか。

山中先生の実践

 山中先生の実践は、学習の振り返りに着目された実践でした。先生は、KPTシートというものを使い「KEEP=継続したいこと」「PROBLEM=改善すること」「TRY=新たに挑戦すること」を子どもたちに書かせてきましたが、Tの部分になかなか具体的な書き込みがされませんでした。そこで、<E-VOLVOX>を使って目標と振り返りを整理する活動を取り入れたところ、自分の成長を客観的・多面的に見ることができ、具体的な書き込みにつながったというご報告でした。これは、 情報を整理・比較する 力の育成になると思います。

山本先生の実践

 山本先生の実践は、子どもたちが実際に体験した野菜づくりのプロセスを「野菜づくり図鑑」として<E-VOLVOX>を使ってまとめるというものでした。さらに、作った図鑑をグループ間で共有し、<E-VOLVOX>の階層構造を利用して食べる場所(葉・実・根)などによって分類することで、図鑑としての広がりを実現していました。非常に大きな体系を構造化してとらえることができ、特に 情報を共有する というところに良さがある実践だと思います。

AI時代に求められる情報活用能力について

佐藤先生

 日常的にAIという言葉が聞かれるようになりました。IoTも私たちの生活の中に入ってきています。簡単に情報が検索できたり、「おすすめ」として情報が提供されたりするということが日常化している中で、私自身知らないうちに考えない人間になっているのではないかと反省させられます。これからは、AIという言葉を視野に入れながら、AIに自分の行動や考え方が支配されていないか?と 自分自身の態度を批判的にみる 力が必要だと思います。自分自身の情報活用能力について立ち止まって考えることが大事ではないでしょうか。そして、AIにはできること・できないことがあるということを理解させたり、AIは自分たちの問題解決に活用できるのだという体験をさせたり、といった授業を進めていくことが大事なのではないかと思っています。

小林先生

 情報があふれている今、あえて 情報を自律的に遮断する 能力が必要なのではないかと思います。今までに得た情報をいったん括弧に入れてみたり、その情報と付き合わないという選択をすることです。そうしてできた時間を使って収集した情報を反芻したり、自己と対話したり、過去の事例と照らし合わせたりして、じっくり考えてみることが大事ではないでしょうか。そうした主体性と洞察力が、AIがさまざまなことを代行するようになったときに人がするべきことは何か?と考えられる力につながるのではないかと思います。そのためには流動性が高く自由度の高い授業を実現することが大事で、私たちの授業観を見直すよいタイミングではないかと思います。また、情報を自立的に遮断させるには、まずは触らせてみたり使わせてみたり十分に経験させることも大事だと思います。

中橋先生

 AIの判断のもとになっているのは、ネットなどに共有・蓄積されている人の行動に関わるデータです。AIがどのようなデータをもとに判断しどのように考えたのかという、一見ブラックボックスのように思えるその部分を想像し理解できる力、つまり AIに何をさせているのか自覚できる 力が必要だと思います。もう1つ必要なのは、 AIに何をさせるか考える 力だと思います。AIが何を学習すれば良いかを決めるのは人間です。AIに何をどう学ばせるのか、プログラミング的思考だけでなく、社会や文化、人権、経済的な問題といった、人間の社会的な営みとの関連を考えることも大事です。こういったことを考えることが、情報活用能力の根底には流れています。そして、今の子どもたちは、日常生活の中に当たり前にAIが位置づいています。まずは身近なところから自覚させることが重要ではないでしょうか。

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